無料ソフトでフォトグラメトリー 現実からデジタルへの輸送法、それからリテラシー

好きなことだけを書くつもりでいたら更新が絶えました。

お久しぶりです。過去の投稿数を見たらキレイに毎月2分の1されて、ついには1を割ってしまいました。ツイッターは不平不満をポロッとつぶやく形で簡単に継続できてしまいますが、まとまった文量を書くというのは好きなものでも、あるいは好きなものだからこそ熱意を要するということを学びました。ブログを始めたら紹介するぞと意気込んでいたものたち、たくさんあった気がしていたのですがいざ始めると頭から飛んでしまうもので、それらを思い出すまで好きなものを補充しようとのんびり構えて過ごして今夜に至ります。

 

接吻像
オーギュスト・ロダン 『接吻』―― 私はこの角度が好きです

ロダンの『接吻』を手に入れたい

そんな補充生活の中で観に行ってきました、某美術館にロダンの『接吻』を。場所をぼかしたところで調べればどこのどの展示で観たか足がつくのですが、敢えて明記はしないでおきましょう。というのも、今回ご紹介する行為はあまり模範的な鑑賞者のすることとは言い難いからです。その展示ではロダンの『接吻』は撮影可とされていて多くの人が記念写真を撮っており、私も例に漏れずカメラで撮りまくりました。360度、アイレベルとローアングルで2周ぐるりと。かねてからロダンが好きでこの作品を生で観たいと思っていたのと、あとでデッサンの練習に使えるように思いつく限りの視点を切り取っておこうという、吝嗇根性丸出しです。それから気づきました。この写真たちを元に3Dモデルが作れるんじゃないかって。ロダンの作品をいつでも手元でこねくり回せるように鑑賞できたなら、そう考えたら微かに背徳感を覚えながらも実行せずにいられませんでした。

本来この作品への撮影許可は、展示へ来たことへの記念であったり、SNSでの拡散による広告効果を狙ったものであるはずですから、作品の存在そのものを家へ持ち帰り再現するための許可ではないと思うんですよね。昨今では本屋さんの本を写真で撮って購入せずに帰るデジタル万引きというものがあるそうですが、その感覚に準じて言うなればこれは一般の鑑賞者に紛れて美術品を持ち去るデジタル窃盗とでも呼ぶべきでしょうか。比較的オフホワイトな人生を送ってきた私にとって、美術品を盗むというのは背徳どころではない所業なのですが、それが手元にあるカメラとパソコンでデジタルながらも可能なのです。情報を本質としたものから物質を切り離して情報を持ち去るというのは一瞬で情報を記録できる端末が普及した現代ならではの犯罪的行為と言えるでしょう1が、この場合は美を本質とした物体から美を拝借しようというわけです。

結論としては失敗だったのですが2

 

フォトグラメトリーとは?

今回選んだ手法はフォトグラメトリーです。複数の写真を機械が解析してそれぞれの視差や明暗から頂点の位置を割り出して立体を自動でつくるのがフォトグラメトリー(フォトスキャニング)とのことです。趣味で3Dモデリングに手を伸ばしたことがありますが、手作業で立体起こしをするのは地道な作業で片手間ではとてもできないというのが正直なところ。それが自動でできるだなんて素晴らしい技術ですね。この技術思想自体は結構前からあったそうですが、ここ最近よく聞くようになりました。

 

フォトグラメトリーを活用したプロジェクトの例:

・長崎の教会群をVRコンテンツ化するプロジェクト

“フォトグラメトリー”を駆使して現実を3Dで再現「長崎の教会群」VRコンテンツ公開

・過去の東京の写真をユーザーから集め、立体化しVRに再現するプロジェクト

 

特殊な機材による撮影でなくても可能である点で従来の3Dスキャンと一線を画しており、風景の立体化と親和性が高いのか全世界で有名な建築物や遺跡、町並みをフォトグラメトリーでデジタル化している様子が Youtube や Vimeo 等で確認できます。

 

実際にやってみる

今回フリーソフトのみでフォトグラメトリーを試すのに上記のチュートリアルを実行しました。カメラは SONY のミラーレスのα6000、使用しているPCのざっくりとしたスペックは2015年あたりに買ったCore-i5のノートPCでGPUはオンボードという決して3Dを扱うために生まれたものとは言えない代物です。

以下は動画チュートリアルを日本語で紹介しているページです:

Free Photo Scanning Workflow! – 無料で始める3Dフォトスキャンワークフロー紹介映像!VisualSFM&Meshlab

以下チュートリアルによるフォトグラメトリー用に写真を撮る際本来気をつけるべき7点:

  1. 露出はマニュアルで
  2. 三脚を用いて手ブレを避ける
  3. 十分な光量
  4. 環境光はソフトなものが好ましい
  5. 透明度のある物体、強く光を反射する物体は不可
  6. 光が足りない場合はシャッタースピードを下げる
  7. 可能な限りあらゆる角度から撮る

 

私が撮った『接吻』は合計59枚。それをチュートリアルに合わせて立体化していきます。美術館で撮っているときはこれでも図々しいほど沢山撮ったつもりですが、フォトグラメトリーを実行するには情報不足のようです。それでいて Dense Point Reconstruct の工程で80分ほどかかり、本格的なフォトグラメトリーが要求するスペックの高さに思いを馳せながらもそれらしいものを生成することができました。59枚の写真に映らなかった死角や、手ブレ、ピンぼけ等のせいで正確な立体化とは言えませんが、そもそもが立体化をする気のない手持ちカメラで撮ったものである点、そして初めてのフォトグラメトリー実践であることを考慮すると、科学の力ってすごいなと思う結果です。

 

ここまでくれば後は Blender に取り込んで、余計な凹凸を均したり欠けた部分を修復すれば完成ですが……

 

フォトグラメトリーとリテラシー

Blender で編集して完成した像を公開したり配布する予定はありません3。本記事は3D業界とは縁遠い一般家庭の機材でもフォトグラメトリーは可能であるという事実について、そしてここから先はそれに伴っての雑感です。

フォトグラメトリーが素晴らしく注目されるべき技術であることに疑いの余地はありません。このブログの書き手が扱えるような程度のものでも 3DCG制作の障壁をいくつか破ることができます。紙製のミレニアム・ファルコンと砂場からカットシーンを生成するチュートリアル動画のように、今までCGでやろうとしたら膨大な時間をかけて気合で作り上げる必要があったものたちが立体物とカメラを用意するだけで可能になりました。不得手とする工程を短縮したり作りたい画によっては大幅に作業量を軽減でき、個人レベルでも扱えることから自主制作の未来を感じさせます。またエンターテインメント以外でも現実の風景を保存したり、あるいは古い写真から過去の光景を再現するなど、今後も様々な用途が出てくる余地のある技術です4。プロセッサの能力の向上や画像解析のアルゴリズムの改良が進めばもっと身近に触れられる日が来ることでしょう。

しかしながら一方で、現実の立体物をデジタルに持ち込むという行為が発展するほど新しい問題が出てくるだろうと感じます。写真やイラスト、映画など平面のメディアは長いこと盗用と闘い続けていましたが、立体物は複製の困難さが意匠のオリジナリティを守っていた側面があり、展示者が比較的無防備であると言えます。またフォトリアリスティックな3Dモデルを制作する場合その再現力も評価されるポイントでしたが、フォトグラメトリーを用いた場合は話が変わってくる気もします5。更に3Dプリントを組み合わせれば、他人の造形物を簡単に第三者が改変・複製、そして現実への再出力が可能なわけで、デジタルと現実がシームレスになりつつある世の中に起きたトラブルで著作権がどのように適用されるのかは現時点で未だ裁判例がありません。ドローンの規制然り、新しく生まれた束縛のない技術も公共に害をもたらせばすぐに抑圧の方向に動いてしまうのが世の常だと思います。

写真を撮るという行為と所有欲は切り離せない関係にあり6、写真撮影の許可は主催者が鑑賞者を信頼して法を逸脱しない範囲で用途を委ねるということです。でなければ一切撮影禁止にするのが最も安全だからです。美術館に限らず立体物を展示する全ての施設や商店がカメラに対してリスクを背負う世界も、無闇にカメラの自由が奪われる世界も望むものではありません。本屋のデジタル万引きが現状犯罪でないとしても良識のある人なら実践すべきでないと直感で理解できるように、テクノロジーが身近になり現実とバーチャルの境が柔らかくなっていくであろう未来に適した良識の醸成が必要であると感じます。

 

などと、少々押し付けがましい語りになってしまいましたが、このテクノロジーで色んな場所へVR旅行ができる日を楽しみにせずにはいられません。

 

 

  1. 厳密には現行法上デジタル万引きは犯罪ではありません。窃盗罪は物理的に盗まないと成立せず、著作権的には私的複製となり違法ではないからです。しかし撮影禁止を無視することは店側の管理権を侵害するため賠償請求を受けたり、そもそも客として見做されず建造物侵入罪が成立する場合があるそうです(wikipedia 調べ)
  2. 最後までお読みいただけたらたぶん分かりますが、再現した3Dデータは本物とは程遠く、またより精度を高めたとしても、本物を観たときの感覚までも再現することは不可能だと思うからです。私が感じる美とは、ただ形状に宿るものではないようです。美術館というのはただ作品を置いている場所ではなく、作品に相互作用を与える空間であると実感しました。
  3. ググったらロダンの作品を立体データにして販売しているところが何箇所か見つかりましたが、それらのデータがどういった背景で制作され、公開・販売されているのか不明瞭である以上、安易に追従するべきではないと考えるからです。個人の考えとしては、偉大な芸術品が完全に失われることのないよう多数の人間がバックアップを取ることに関しては賛成ですが、そこにオリジナル制作者の意志がない以上扱いには気をつけるべきだと思います。
  4. 映画『アイアンマン3』で監視カメラの映像からテロ現場の爆破当時の状況を3Dで再現し、その中で推理するシーンがありましたが、不可能な技術ではないと思うとわくわくしますね。
  5. もちろんフォトグラメトリーで誰でも完璧に立体物を再現できるわけではありませんし、新しい技術を実践することは否定されるべきではありません。
  6. 写真技術により記録を残すことに「撮」という漢字はいつ当てられたのでしょうか? 字の持つ意味は「つまみとる」とのことですから、現像の工程を示したのかもしれません。「取る(とル)」の使い分け語が写真行為に当てられたこと、英語で写真を撮ることを”take”と言うことは、写真の対象物を所有する感覚が世界で共通していることを示唆しているように思います。

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