映画『スパイダーマン: スパイダーバース』(2018)靴紐を結びたい素人的考察と好きなところまとめ

今月頭にやっとスパイダーバースが公開されました

3ヶ月遅れによって旬を逃した感はありつつも、アカデミー賞発表後の公開は戦略として正しいのかもしれません。海外の漫画のアニメ映画、しかもディズニーブランドではないものを上映するとなると、マーケティング上のあれこれを想像してしまいます。私自身スパイダーマンはサム・ライミの映画版から入ったのでアメコミガチ勢ではないのですが、コアなファンや今までの映像化作品を追っていなくても楽しめる作品だということをアカデミー賞で裏付けられた上で公開されるのは喜ばしいことだと思います。目指せ続編レオパルドン登場。普段は公開中の映画についてはわざわざ紹介するまでもないと思ってしまって、あんまり書いたりしないのですが、今作は劇場で4回観るくらいにドハマリしており、Twitter でうっかり無差別ネタバレをしないためにもここに書くことにしました。なので本記事は既に観ていることを前提としています。トレイラーから画像を引用しようと思って改めて見たら、全然本編のシーン使われてなくてびっくりしました1。というわけで今回は画像なしの記事です2

 

スパイダーマンの張り付く能力

スパイダーマンといえばウェブスイングしてる姿が浮かびます。そのアクロバティックな動きは映像やゲームに映えるのでメインにされがちなのですが、今回は「壁に張り付く」能力にも焦点が当たっていて新鮮でした。実際のところスパイダーマンの超人的能力はスパイダーセンス、怪力、張り付きの3つで、ウェブはピーターがもともと持っていた頭脳による発明品です。頭脳とガジェット含めてスパイダーマンであるとは思いますが、特異な能力としてはこの3つに絞られると思います3。そして今作スパイダーバースではその3つを丁寧に描くことで、他のヒーローとは違う「スパイダーマンらしさ」を際立たせていたと思います4

コミック全話を読んだわけではないので断言できないのですが、張り付く能力に対してここまで掘り下げたのは初めてではないでしょうか?5 マイルスが壁に張り付く能力を上手く使いこなせないのは、ただ単に彼がスパイダーマンとして未熟であるという描写にとどまらず、彼が覚悟を決められず前に進めないことを象徴していると思います。冒頭からマイルスは新しい環境に対して不安を抱く性格であることが示されており、前の状況に固執して中々適応できていないのが伺えます。今作でマイルスの頭脳はそれ程フォーカスされていませんが、エンディングの様子から察するに彼は最初から新しい環境を生きる能力を充分に備えていました。必要な素養は持っているのに変化を恐れるあまり力を発揮できないというのがマイルスの課題で、その恐れの強さが指の粘着力として顕れています。

この点からマイルスが高層ビルから飛び降りるシーンを観ると、決して飛び込むことへの恐怖が無くなったわけではないことが想像できます。窓ガラスを砕いてでも無理やり引き剥がすことでスパイダーマンに成るというのは、ピーター・B・パーカーがマイルスに教えた “Leap of Faith” の考え方にもつながっています。字幕では「自分を信じて~」という風に訳されていたと思いますが、このイディオム自体はポジティブな意味だけではなく「盲信する」というようなネガティブな意味合いも持っています。成功することが確約されているのであれば、恐怖を抱くことなどありません。しかしそんな約束はあり得ず、スパイダーマンに成る(何者かに成る)ためにはどこかで無謀な挑戦をしなければならない。ピーター的にはもしかしたら、無謀なことはせずに普通の子供のままで良いんだよという諦めを促すメッセージだったのかもしれません。実際マイルスはすぐには糸を解けません。ですがドア越しの父との会話を通して6、決意を固めて跳びました。指に張り付いて砕けるガラスは、恐怖を消し去ることはできないが、覚悟によって打ち克つことはできる、といったメッセージが込められた美しいカットだったと思います。無駄にガラスを割ったわけではないのです。

 

マイルスの靴紐、その他好きな描写

マイルスのエアジョーダン、片方を敢えて解けさせるのが彼流のおしゃれのようですが、作中で2回たしなめられます。最初はモブ生徒、次にスパイダーマンに。それでも直さずに何回か転ぶわけですが、覚悟の跳躍シーンのスニーカーはちゃんと両方紐を結んでます(たぶん)。サントラ7に使われている上下反転した落下シーンのイラストでは紐が長くたなびいてますが、本編ではその紐が見えなかったので、やはりこのシーンでは意図的に両足とも紐を結んでいると思います。靴紐が結べていないのはピーター・B・パーカーもでした(そもそも靴が有り合わせで不揃い)。人生の迷いの暗喩なのでしょうか。ピーターが自分の次元に帰った後はきちんとした足元でMJのもとへ向かっています。

そういったさりげない描写で語るところがあって、4回観ても新しい発見があったりします。全編全カットがクールになるよう目指して作られた作品だとのことですが、ここからは個人的に好きな描写を列挙していこうと思います:

  • Approved by the Comics Code Authority
  • NYではここ数回地震が起きているというニュース、次元ポータルは既に何回か開かれていて、その都度スパイダーマンが防いでいた?
  • アルケマックスの社名が、初めて地下鉄の隠れ空間に入るときのフェンスに既に表示されていた。知ってたら気付くくらいの絶妙な配置
  • マイルスの蜘蛛がスプレー缶を移動しながら変色して、カモフラージュ能力を予見していた。(グリッチ表現がされていたので、異次元から来た蜘蛛?)
  • ギュウゥーンって咬まれる時の音
  • 蜘蛛に咬まれてから吹き出し(テロップ)が表示されるようになる。咬まれた時の特にコミカルな体内描写から、マイルスがコミックの主人公に加わったことを表現している?
  • マイルスより背の高いグウェン
  • 髪の毛切るところの気まずさ
  • 一般人視点から見たスパイダーマンの戦闘シーン。無理だ……と思うのも納得
  • 加速器の回転するパーツを片手で受け止めるスパイダーマンの怪力
  • マイルスに難題を託すピーター。「大いなる力には大いなる責任が伴う」(=力を得たら子供だろうと望むまいと責任を負え)というスパイダーマンの狂気じみた信念が伝わって、少し恐ろしいところが良いです。
  • プロウラーの音
  • スタン・リー
  • 追悼式に各々のマスクを被って集まる人々
  • お前がドクター・オクトパスかよ(あとシリコン製のアーム)
  • あっこのスーツ、ゲームで見たやつだ!
  • 「コンニチワー! ハジメマシテヨロシクー(関西アクセント)」
  • メイおばさんはドック・オクと友人関係だった?
  • ウェブシューターつけてたりつけてなかったり
  • 全員窓の外で待ってるところ
  • 駆けつけたマイルスに対してピーターは「マイルス!」と呼ぶのに対してドック・オクが「スパイダーマン!」と叫ぶところ、何故か涙が出る。
  • SP//dr の腕を引きちぎられて、自分の腕を抑えるペニー・パーカー。オマージュ元的にシンクロしてそう
  • マイルスとグウェンのコンビネーションアタックとダブルパンチ
  • 最初に見たスパイダーマンの動きをトレースしたマイルス流のスウィング
  • That’s all, folks!
  • マイルスが透明になり見失うが、少し触れた瞬間に反射で殴り飛ばすフィスク
  • そびえ立つブルックリン橋と闇に包まれていく世界
  • 蜘蛛の糸のように輝く多次元宇宙
  • 指揮者のような振る舞いで空中に寝そべるところ
  • スタン・リー

等々、思い返したらそれだけでまた観たくなってきました。さっき観たばかりなのに。IMAX上映やアトモス上映は残念ながら殆どの場所で終了してしまっているみたいですが、画はいわずもがな音もすごいので映画館で観られる内に観ておきたいなと思います。BD買ったらヘッドフォンかウーファー付きで楽しみたい。絶賛されていると少し引いてしまう性分の私ですが、この映画見たらなんだか働きたくなりました。ソニー・ピクチャーズも向こう7年くらいスパイダーマン関連の作品を育てていきたいって言ってるらしいので8それに向けて私も靴紐結ばなきゃなと思います。

 

 

  1. カバーアートと中身の絵が全然違う、というのはアメコミあるあるだそうですね
  2. トップ画像は映画を観る前に妄想しながら描いたファンアートです。お目汚し失礼しました。
  3. マイルスはそれに加えて透明化と電撃を持っていますが、それも上手く彼の心情と絡めて発揮されてました
  4. MCUスパイダーマンはその点次回作に期待しています。

  5. サム・ライミ監督の『スパイダーマン2』でも主人公が一時的に能力を失うことで心理を描写していましたが、ウェブにフォーカスが当たっていたと思います。心因性の射精障害のメタファーだという説もあるそうですね。
  6. 家族の絆を再確認する以上に、彼の少年時代の終わりを告げるような悲しさが感じられました。スパイダーマンとして生きるということは、警官である父親への離反であり、別の世界で生きるという決別です。
  7. Apple Music で配信中!
  8. Inside Mike Hopkins’ Fiercely Independent Strategy for Sony Pictures Television

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。