映画『キャビン』(2012) 実質実写版サウスパーク、ただし教訓抜きで。

内輪ネタでも良いじゃない。動いてるのが嬉しいから。

何か観たいけど特に観たいものが無い。恋愛映画にはアパシーで、ヒューマンドラマに泣くほど元気がなく、サスペンスは人を覚えられなくてアクションはちょっと食傷気味。でも何も観ないという選択肢を選ばないという人間はホラー映画にたどり着きます。少なくとも私の場合は。しかしながら怖がるために観るのかといわれたら、寧ろ真反対のことが多いです。何か面白いものを求めて、と言ってしまえばホラーに限らずあらゆる娯楽に対してなのですが、どこかホラーを笑えるものとして捉えている自分がいるのです。死や流血といったものへの本能的な恐怖という不条理を描くのがホラーだとして、コメディアンのジョークを笑えるのは彼らが不条理に滑稽だから1であって、そのナンセンスさの提供者の姿が画面の裏に見える時ホラーはコメディに転ずるのだと私は思います。そういうわけで今回はメタ的な見方ばかりしてしまってホラーを怖がるものとして享受できていない私がコメディとして楽しんだホラー映画、というかコメディ映画ドリュー・ゴダード監督『キャビン』(2012年 原題: The Cabin in the Woods)の感想です。件名とここまでの流れで察するものがあるとは思いますが、ネタバレ注意です。

 

キャビン 湖ではしゃぐ若者たち
13日の金曜日以来湖は物騒になりました。

存在自体は結構前から知っていたんです。Netflix のホラーカテゴリをダラダラと上から下までスクロールしてましたから。初めてあらすじを見かけた時はなんだこの『死霊のはらわた』のクローン映画って思ってました。時間は有り余ってるが無駄にはしたくないとかいう結構食わず嫌いな性分なので、焼き増しならまあ後回しで良いかな~と流しちゃってたんです。娯楽への嗅覚が花粉症。でもTwitterで面白いらしいぞという評価を見かけて観ることにしました。結果、あらすじの『死霊のはらわた』っぽさはでした。というか有名作すぎてオマージュしてないわけがなかった。あらすじとしてはよく見るホラーの若者たちがよくみる山小屋でよくみる異形のものたちによくみるパターンで殺されるのが、実は世界の奥底に潜む旧き者を抑えるための儀式だった、というホラーあるあるな不条理を合理化するメタ映画。地下室で本、オルゴール、ルマルシャンの箱もどき、ネックレス、ホラ貝が登場して、その場で選んだアイテム次第で殺人鬼が決まるというガチャタイムはホラー好きなら笑みがこぼれるはず。この時点で私が気づいたのはルマルシャンの箱とネクロノミコンくらいのものですが、まさか後々御本人(もどき)まで登場してくれるとは予想していませんでした。

 

キャビン 銃を構えるセキュリティたち
ガバガバセキュリティですが、そもそも収容できていることが奇跡。

森のなかで盛りがついちゃったり、単独行動したりといったホラーのツッコミどころに対してこの映画が出したのは全てフェロモンのせいだとのこと。個人的にナイフに電流が走ってうっかり手放してしまうところが好きです。この若者5人が生存率を高めようとする度にあの手この手で邪魔する大人たち。ああ歴代のホラー映画のお馬鹿な犠牲者たちは実はまっとうな思考力を持っていたのにも関わらず、裏でこうした陰謀あって天に召されてしまっていたのかなぁなんて思ったり。ただこの映画のノリってものすごく既視感があるんですよね。多分サウスパークです2。アメリカンなパラノイアを度々描いているサウスパークの詭弁的飛躍論理に慣れ親しんだ身として、終盤の阿鼻叫喚の図は実写版を観ているような気分でした。特に銃で自殺する職員のカットとか。残念に思うのはサウスパークにあるパンチの効いた風刺がこの映画には無いところです。メタ表現が何を俯瞰しているのかを考えてみた時、この映画で登場する旧き者が象徴しているものへの問題意識にいまいちピンときませんでした。観客のメタファーだとして、観客は確かにホラーを求めますし、娯楽として生み出された犠牲者にとって我々は邪神そのものでしょう。でも儀式に失敗したら人類が滅ぼされるってところの整合性が上手く見つけられません。私は観客はお約束よりも新しい展開を求めていると思うのですが、型にはまらないホラー映画は興行的に失敗して他のジャンルに人気を取られるってことなんですかね。別に教訓が欲しいとは言いませんが、ホラーファンがホラーファンを風刺した、ただホラーあるあるをメタ的に消費する内輪ネタ映画に留まりその外には一切出てこないのが勿体無いと思いました。だってホラーファンしか観ないでしょと言われたら、それまでなのですが。

 

キャビン 驚愕するヒロイン
クリステン・コノリー、当時32歳……32歳?

少々批判めいてしまいましたが、どうかご容赦下さい。当ブログには好きなものしか載せない方針ですから決して作品が嫌いだとか制作陣をコケにしたいという意図はございません。寧ろホラー映画あるあるをまとめて最後に放出しカタルシスを味あわせてくれるこの作品は久しぶりに声を出して笑った映画です。映画120年の歴史の中で初のホラー映画3から90年と少し、その歴史の中で積み上げられたお約束と魅惑的な異形達。少し悪ふざけが過ぎたとしても、見覚えのあるキャラクターや伝承の怪物が動いてる姿を観る機会をくれただけでも価値があるというもの。内輪ネタで完結してても良いんです。私もその内輪の一人だということを以下気づいた小ネタを列挙することで証明し締めくくりたいと思います(言及済みのもの除く):

  • オープニングのタイトルの表示が『ファニーゲーム』
  • 監視システム自体が『トゥルーマン・ショー』(ホラーっちゃホラー)
  • 不気味な絵画の背景に異様に背が高いスレンダーマンが描かれてる
  • 猟奇的家族ゾンビは『悪魔のいけにえ』の一家がモチーフ
  • そのうちの一人ペイシェンスを演じた女の子が『サイレントヒル』でアレッサ役。見覚えがあると思ったら
  • 京都支部は『リング』の貞子もどき。カエルに閉じ込めるって。
  • ブエノスアイレス支部は『キング・コング』
  • ストックホルム支部は『遊星からの物体X』?
  • お祝いムードの職員の後ろのスクリーンにて『死霊のはらわた』並の大量吐血
  • 異形を収容している『キューブ』
  • 縮尺が分かりづらいけど明らかにデカイ『妖怪巨大女』が紛れてた
  • 『シャイニング』の双子も入ってた
  • 『エイリアン』のフェイスハガー
  • 『It』のピエロもどき
  • 白い人形マスクは『ストレンジャーズ』
  • ゲーム『F.E.A.R.』のアルマっぽい子いた
  • 一瞬『ノスフェラトゥ』映ってた

などなど……途中から動体視力の闘いに変わった気がします。割愛or見逃すなんて許せないって小ネタを見つけた方は是非教えて下さい。

 

『キャビン』(原題: The Cabin in the Woods)

2012年公開

監督 ドリュー・ゴダード

脚本 ドリュー・ゴダード/ ジョス・ウィードン

出演 クリステン・コノリー
クリス・ヘムズワース
アンナ・ハッチソン
フラン・クランツ
ジェシー・ウィリアムズ

 

 

  1. ねずっち氏はネタを披露すると笑いよりも拍手が起きるとのことですが、機知に富んだ言い回しや巧妙なネタは感心のほうが上回ってしまうのかもしれません。
  2. シーズン6エピソード8の『カトリックとケツのおアツイ関係』やシーズン7エピソード8『オネエはタマげたクラブピープル』で、人外が社会の規範や流行をコントロールしているというパラノイアを描いています。
  3. 1920年の『カリガリ博士』が最初期のホラー映画とされているそうです。次点の1922年の『吸血鬼ノスフェラトゥ』は留学中に映画史の授業にてフィルムで再現撮影し犠牲者を演じたので思い入れの深い作品です。

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